自己破産|マンションの更新料返還等請求

主文

1 被告会社は,原告に対し,34万8000円及び内金22万8000円に対する平成20年3月6日から,内金12万円に対する平成20年7月2日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本件確認の訴え(後記第1の1(2))を却下する。
3 被告会社の第2事件及び第3事件についての各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,全事件を通じて被告会社の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 第1事件(本訴)
(1) 主文1項同旨
(2) 原告と被告会社との間で,両者間の平成15年4月1日付け賃貸借契約に基づく,原告の被告会社に対する平成19年4月1日付け契約更新に係る更新料7万6000円の支払債務が存在しないことを確認する。
2 第2事件(反訴)
原告は,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第3事件
被告Aは,被告会社に対し,7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,@被告会社からマンションの一室を賃借した原告が,その賃貸借契約中の,原告が更新料を支払う旨の条項(以下「本件更新料条項」という。)及び原告が定額補修分担金を支払う旨の条項(以下「本件定額補修分担金条項」という。)はいずれも消費者契約法10条により無効であるとして,被告会社に対し,不当利得返還請求権に基づき,既払の更新料及び定額補修分担金の合計34万8000円及びこれに対する訴状又は訴え変更申立書送達日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めるとともに,未払の更新料7万6000円の支払債務が不存在であることの確認を求めた(第1事件(本訴)。
前記第1の1)ところ,A被告会社が,本件更新料条項は有効であるとして,原告に対し,反訴請求として,その未払更新料7万6000円及びこれに対する催告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第2事件(反訴)。前記第1の2)上,B上記賃貸借契約における原告の連帯保証人である被告Aに対しても,その未払更新料7万6000円及びこれに対する催告期間満了日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた(第3事件。前記第1の3),という事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア被告会社は,不動産管理業,不動産の仲介及び売買,不動産賃貸業等を目的とする株式会社である。
被告会社は,昭和61年11月15日に建築された京都市a区b町c−d所在の建物(以下「本件建物」という。)を,平成12年3月24日競売により取得し(甲13,乙11),これを賃貸物件とするために建物内の部屋(48室)に改装を施し,建物名を「Bハイツ」とした上,これらの部屋を賃貸していた。
イ原告は,熊本県の出身であり,C大学D学部に進学するに際し,京都市内に居住する必要が生じたため,後記のとおり,被告会社から本件建物の一室を賃借し,平成15年4月からそこに居住していた。
(2) 賃貸借契約等の締結(乙1)
ア原告と被告会社は,平成15年4月1日,以下の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,同日,被告会社は,原告に対し,本件賃貸借契約に基づき,以下の物件を引き渡した。物件本件建物311号室(以下「本件居室」という。)
期間平成15年4月1日から平成16年3月31日まで賃料月額3万8000円
イ同日,被告会社と被告Aは,被告Aが本件賃貸借契約における原告の債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
(3) 本件賃貸借契約等に関するその他の定め
ア本件賃貸借契約の契約書では,各種の条項(以下「本件賃貸借契約条項」という。)が定められており,その中には別紙のような規定がある。(乙1)
イ以上のほか,本件賃貸借契約の内容として,原告と被告会社は,共益費及びRCV料(ケーブルテレビ使用料)を月ごとに一定額支払うことについても合意した。(乙1)
(4) 本件賃貸借契約等に関するその他の事実
ア重要事項説明
原告は,仲介人であるE株式会社から,平成15年3月14日,同日付けの重要事項説明書により,「借賃及び借賃以外に授受される金銭」として,賃料の2か月分の更新料があること,12万円の定額補修分担金があることの説明を受けた。(乙9)
イ定額補修分担金の支払等
原告は,本件賃貸借契約の締結に際し,契約書中の「私は,本契約締結にあたり以上の説明を受け,上記事項を熟読の上,ここに定額補修分担金の支払いを了承し,その支払いに合意致します。」との記載の後に署名,押印し(乙1),被告会社に12万円の定額補修分担金を支払った。
ウ本件賃貸借契約の更新
(ア) 原告と被告会社は,@平成16年2月27日,A平成17年2月28日及びB平成18年2月28日の3回,それぞれ,原告が被告会社に更新料として賃料の2か月分に当たる7万6000円を支払って,期間を@については平成16年4月1日から平成17年3月31日まで,Aについては平成17年4月1日から平成18年3月31日まで,Bについては平成18年4月1日から平成19年3月31日までとして,本件賃貸借契約を合意更新した。(甲1,2,乙2)
(イ) 原告は,上記最終の合意更新による賃貸借期間満了後の平成19年4月1日以降も,本件居室の使用を継続し,よって,本件賃貸借契約は同日から法定更新された。原告は,この法定更新時に,被告会社に対して更新料を支払っていない。(甲3,乙3)
(5) 関係する法律の定め
ア消費者契約法10条
民法,商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
(以下,「条項であって」までの部分を「前段要件」,その後の部分を「後段要件」という。)。
イ借地借家法
(ア) 26条1項
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。
ただし,その期間は,定めがないものとする。
(イ) 28条
建物の賃貸人による第26条1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは,建物の賃貸人及び賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合でなければ,することができない。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件更新料条項の有効性
(原告及び被告Aの主張)
本件更新料条項は,消費者契約法10条により無効である。
ア本件更新料条項の法的性質
被告会社は,本件更新料条項は,@賃料の補充,A更新拒絶権放棄の対価,B賃借権強化の対価としての性質があって,更新料の支払には合理性があると主張するが,以下のとおり,更新料の支払には合理性がない。
(ア) 賃料の補充
賃貸借期間が長期で設定され,かつその期間中賃料相場が増額していくといった社会事情がある場合には,将来生じる賃料の不足分をあらかじめ更新料という形で補っておくことに合理性がないわけではない。
しかし,現在の不動産価格の状況からはそのような社会事情があるとはいえないし,アパートやマンション等の建物賃貸借においては,賃貸借期間は1年や2年と短期であるから,賃料の不足分が生じるとは考えられない。
また,賃料の不足分を補うとしても,賃貸借期間を考慮することなく一定の金額で算定することには合理性がない。
また,更新料に賃料補充という性質があるのならば,その分月額賃料が低額になっていること,中途解約の場合の精算が定められていること,更新料が賃料の補充・前払いであることが賃借人に告知されていることが必須であるが,本件賃貸借契約では,月額賃料が低額になっているとは認められないし,中途解約の場合の精算条項はなく,むしろ更新料の返還には一切応じないとされており,使用収益期間と更新料は対応していない上,更新料が賃料の補充である旨の表示も一切ない。
重要事項説明や契約締結の際にも,更新料が何の対価なのかの説明は一切なく,賃料の補充であるという説明もなかったし,更新料の事前告知も一切されていない。
以上によれば,賃料の補充であるとの考え方に合理性はない。
(イ) 更新拒絶権放棄の対価
賃貸借契約の更新に関する賃貸人の更新拒絶権は,期間満了の6か月前までに行使しなければならないところ(借地借家法26条1項),通常,合意更新がされる契約期間満了のころには,既に賃貸人による更新拒絶権行使の期間が徒過しており,更新拒絶権が発生しないことが確定している場合がほとんどである。
したがって,このような場合には,もはや更新拒絶権の放棄とか,更新拒絶権行使に伴う紛争回避ということが問題となる余地はなく,更新拒絶権放棄や更新拒絶権行使に伴う紛争回避の対価として更新料の性質を説明することはできない。
また,賃貸人が期間満了の6か月前までに更新拒絶権を行使した場合,その後賃借人が更新料の支払を申し出たからといって,賃貸人が更新拒絶権を放棄して合意更新に応じるとは通常考えられない。
いずれにせよ,更新拒絶権が発生するか否かにかかわらず一律に合意更新の場合に更新料が徴収されていることの説明はつかない。
加えて,本件賃貸借契約は,収益目的の居住用賃貸物件の建物賃貸借契約であるが,このような場合に正当事由が認められることは考えられず,究極的なケースを想定しても,立退料の支払もないまま正当事由が認められることはない。
そうすると,賃借人が,立退料分を受領せず,逆に月額賃料の2か月分の更新料を支払わなければならないという本件更新料条項は,その料金に相応するサービスの提供がなく,更新拒絶権放棄との対価性をもたない。
(ウ) 賃借権強化の対価
法定更新の場合には,期間の定めのない賃貸借となり(借地借家法26条1項ただし書),賃貸人は,解約の申入れをすることができ,解約申入れから6か月を経過すると賃貸借契約は終了するが(同法27条1項),解約申入れにも,更新拒絶の場合と同様に,正当事由があることが要件となる(同法28条)。
しかし,マンションやアパートのように,当初から他人に賃貸する目的で建築された物件の場合,賃貸人の自己使用の必要性は極めて希薄であるから,賃貸人に同法28条所定の解約申入れにおける正当事由が認められることは考えられず,更新料を支払って合意更新をしても賃借権の強化にはならない。
また,本件更新料条項は,法定更新においても更新料が発生するとしており,この点において,そもそも本件では賃借権強化の対価という理屈は成り立ち得ない。
(エ) 以上のように,被告会社の主張する本件更新料条項の法的性質は,いずれも当事者の意思に反し合理性がない。
更新料は,賃借人から賃貸人に対して単に慣行的に支払われてきた贈与又は謝礼としか説明ができないものであるが,現在では賃貸物件数に比べ需要が少なくなっており,賃借人が一方的に贈与や謝礼をする根拠が欠けている。
結局,更新料とは,賃貸人が,情報力や交渉力の格差を利用し,賃借人に十分な法的知識がないことを奇貨として,半ば強制的に徴収している金銭である。
イ前段要件該当性
本件更新料条項は,賃借人である原告にのみ一方的な負担を強いる不合理なものであって,民法601条の賃料支払義務に加えて賃借人の義務を加重するものであるから,前段要件該当性がある。
被告会社は,本件更新料条項は契約の中心条項であるとして,消費者契約法10条の適用がないと主張するが,中心条項と付随条項を判然と区別するのは不可能であるし,中心条項に同条の適用がないという見解そのものも誤りである。
ウ後段要件該当性
更新料には何らの合理性,対価性はなく,賃借人は合理性,対価性のない金銭の支払という重大な不利益を受けるのに対し,賃貸人には何らの不利益も発生しない。
受領済みの更新料を返還しなければならないのは,本件更新料条項が無効になる以上,法が初めから予定している当然の法律効果であって,賃貸人の不利益ではない。
賃貸人と賃借人との間に情報力,交渉力の格差があり,更新料支払条項を契約条件に入れるか否かの選択の自由,交渉が賃借人に保障されていないことからも,賃借人の受ける上記不利益が大きいことは明らかである。
被告会社は,賃借人が賃貸物件情報を手に入れやすいと主張するが,これは単に情報が量的に入手しやすいというだけであり,問題となる条項がいかなる計算なり趣旨で設定されているかという情報の質の面では賃貸人と賃借人との間には大きな格差がある。
また,インターネット上の賃貸情報でも,更新料の事前告知は一切されておらず,いざ契約の時点になって初めて更新料という名目の負担を聞かされるというのが実態であり,重要事項説明や契約締結の際に,更新料が何の対価なのかの説明も一切ない。
また,被告会社は,更新料が社会的に承認されているなどと主張しているが,社会で広く行われていても無効となることはあるのだから,これは更新料条項が有効であることの根拠にはならない。
以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して,一方的に,正当な理由なく賃借人である原告の利益を害するものであり,後段要件に該当する。
エ借地借家法30条との関係
借地借家法30条は,「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは,無効とする。」としているところ,同節の規定である同法26条1項,2項は,更新料の支払を条件としない法定更新を認めているから,本件更新料条項のように,法定更新に際して賃借人に更新料支払義務が発生するという内容の条項は,借地借家法30条によって無効となる。
(被告会社の主張)
本件更新料条項は有効である。
ア本件更新料条項の法的性質
(ア) 賃料の補充
更新料は,賃料の補充・前払いとしての性質を有する。
a 更新料で賃料を補充することの合理性
賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定するのが当然であって,その結果生じる設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について,更新料により補充することは十分合理性を有する。
現在では,全国的に賃貸物件は10パーセント以上余っており,京都においても,全賃貸物件のうち20パーセント,場所によっては30パーセントもの空き室が生じており,借り手市場となっていて,他の物件より不利な条件設定をすれば,競争力を失い,空き室に苦しむことになる。
一方,賃借人は,更新料の存在によって,契約当初から更新時までは低く設定された賃料で借りることができ,月額賃料を基準に設定される仲介手数料や敷金の支払も少なくて済み,入居しやすいという利点があるし,一般的に更新料の定めのある物件は,更新料の定めのない物件に比べ賃料は割安に設定されており,賃借人は更新料のある物件にするか否かを選択することができる。
b 当事者の合理的意思
賃借人は,仲介業者から,複数の物件の紹介を受けて,物件の所在,設備,広さ等とともに,更新料を含む経済的な出捐(礼金,敷金,賃料及び更新料)を比較対照した上で,物件を選択しており,個別的な契約締結の場面においても,更新料が契約更新時に発生する旨重要事項として説明されるなどしているので,更新料を,更新の際に負担する金銭であり,自己の支出となり,賃貸人の収入となり,返還されない金銭であることを理解している。
したがって,賃借人は,更新料を契約更新時に支払うことが必要であり,賃借する物件を使用収益するのに必要となる経済的負担として把握しているのであり,そのことから更に進めて,賃借人が,更新料を,賃借する物件を使用収益するのに必要な対価として把握していると意思解釈することは正当である。賃借人は物件の使用の対価として,賃料が毎月発生する経済的負担であり,更新料は更新時に発生する経済的負担という認識を有しているのである。
また,更新料は広く利用され,社会的承認を受けてきたものであるから,使用収益の対価であるといえる。
そうすると,当事者間で更新料の支払に関する合意がされている以上,その合理的解釈として,使用収益の対価の支払に関する合意がされているものと評価できる。
c 原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,本件更新料条項には中途解約の場合の精算条項がなく,更新料が使用収益期間に対応していないと主張する。
しかし,建物賃貸借における賃料の支払を月ごとと定めた民法614条は任意規定であり,それと異なる賃料前払いや年払いの合意をすることも可能であって,契約更新時に賃借人に補充賃料を支払ってもらうことも自由である。契約期間内に中途解約などによって契約が終了した場合と期間満了の場合とで差はあるが,これについては,中途解約の際は賃借人が更新料の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものであるとか,中途解約に伴う違約金条項としての側面が表れたものであるとか,更新料が賃料の補充のみではない複合的な性質を有しているから差が生じたものである,などと説明することができる。
また,そもそも賃貸借契約は継続的な使用の対価として賃料を設定するため,契約上厳密に使用収益の期間と賃料額を対応させること自体困難であって,そのような完全な対価性を有していないことをもって,不合理であるとはいえない。
そして,本件の更新料は,1年間の更新期間ごとに支払うものであり,更新しなければ支払う必要がないから,この点で,まさに使用収益の期間に対応して支払うことが予定されているといえる。さらに,賃借人が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は,ほぼ賃貸期間に比例している上,賃貸人たる被告会社においてはこれを収入の予定として,賃借人たる原告においては支出の予定として,あらかじめ契約締結時に互いに納得していたのであるから,本件居室の使用収益の対価としては,毎月支払われる賃料と1年ごとに支払われる更新料の2本立てになっていた,すなわち,本件の更新料は賃料の補充ないし賃料の前払いとしての性質を有していたと解するのが,当事者の合理的意思に合致する。
(イ) 更新拒絶権放棄の対価
更新料が授受されて賃貸借契約の合意更新が行われる場合,賃貸人は,正当事由があるときでも,正当事由が存在しないことが明らかではないときでも,更新拒絶をしないで契約を合意更新することになるから,その意味で,更新料は,賃貸人が更新拒絶権を放棄し,その結果賃借人が更新拒絶権行使に伴う紛争を回避することができることの対価としての性質を有する。
賃借人も,更新料にはこのような性質があると思えばこそ,更新時に更新料を支払うのであるから,更新拒絶権放棄の対価としての性質も有していたと解するのが当事者の合理的意思に合致する。
原告及び被告Aは,更新拒絶権の行使可能時期の点を問題とするが,賃貸人は,契約期間満了6か月前までに更新拒絶権放棄をいわば先履行し,契約更新時に,賃借人からその対価としての更新料の支払を受けるというように説明することは十分に可能である。
また,原告及び被告Aは,更新拒絶の正当事由が認められることは考えられないと主張するが,正当事由の有無を明確に判断できない場合も少なくなく,そのような場合に,賃貸人が更新拒絶権を放棄して紛争を回避することも多い。
(ウ) 賃借権強化の対価
更新料を支払って賃貸借契約が合意更新され,契約期間中は賃貸人から一切解約申入れがされない賃借人の立場と,法定更新となって,いつ正当事由に基づく解約申入れがされるか分からない賃借人の立場には差異があるから,この意味で,更新料の支払により賃借権は強化されるし,そのように解するのが当事者の合理的意思に合致する。
イ前段要件該当性
契約の要素と主たる給付の対価に関する条項のことを中心条項といい,これを付随条項と区別すべきであるが,消費者契約法10条前段は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」という文言で規定されているところ,契約の要素や価格のように,あらかじめ与えられた法的基準ではなく,専ら当事者の自由意思や,市場経済システムに基づく需要と供給によって決定される事項に関しては,「比べる」適切な法的基準が存在せず,同条による司法的内容審査には服さないとの趣旨と解すべきであるから,中心条項には同条は適用されない。
そして,中心条項と付随条項の区別は,市場メカニズムが一定程度機能しているか,当事者の主観的意思が関与しているかによって行うべきである。
本件更新料条項は,その法的性質からは,賃料の補充という意味で主たる給付の対価である上,その契約書や重要事項説明書の記載上主たる給付の価格条項たる賃料と並べて記載されており,賃借人の意思決定の考慮要素となっているから,市場メカニズムが機能し,当事者の主観的意思も関与しているといえる。
したがって,本件更新料条項は,中心条項であり,消費者契約法10条前段は適用されない。
ウ後段要件該当性
(ア) 判断基準
後段要件は,その条項を無効にすることによって事業者が受ける不利益と,その条項が有効であることによって消費者が受ける不利益とを総合的に衡量し,消費者の受ける不利益が信義則に反し均衡を失するといえるほど一方的に大きい場合に,該当性が認められる。
また,契約の核心的合意部分については,契約当事者の関心が強く,市場メカニズムが機能することが期待できるため,後段要件該当性の判断については更に謙抑的な基準が適用されるべきであり,消費者の受ける不利益が一方的に害されかつその程度が格段に大きい場合に限り,後段要件該当性が認められると考えるべきである。
本件更新料条項は,前記イのとおり中心条項であり,上記の核心的合意部分である。
(イ) 本件更新料条項の合理性等
本件更新料条項は,前記アのような性質を有する合理的なものであるし,更新料の金額も,本件居室の状況に加え,契約期間や月額賃料の金額等の事情に照らせば,過大なものではない。
また,建物賃貸借契約における更新料の約定は,40年以上にわたり全国的に広範囲に使用されており,社会的に慣行として承認されている。
企業の中には,賃貸物件について更新料の補助制度が設けられているところもあり,行政においても,生活保護では更新料の扶助が行われているし,裁判所においても,調停条項や和解条項等で更新料の定めが認められている。このような社会的承認があることは,更新料条項が合理性を有することの証左である。
さらに,借地借家法においても,更新料は何ら規制がされていない。
(ウ) 情報力,交渉力の格差
近年の居住用建物賃貸借契約は借り手市場であり,賃貸人には零細な事業者が多いが,賃借人は,賃貸物件情報を,インターネット,情報誌,広告等の媒体により,容易に大量に入手することができるところ,物件の広告などにおいて,更新料という用語は広く用いられているし,更新料は賃貸物件の条件提示において明示されており,契約書にも明確な文章で記載されている。
更新料は,「約定の契約期間満了後も契約継続する場合にその対価として支払うものである。」という意味においては一般に広く理解されている。
本件においても,賃借人である原告は,数ある賃借物件から,賃貸条件を比較対照して自由に選択できる立場にあった。
また,本件更新料条項は,更新料の金額,支払条件が明確である上,原告は,このような更新料の約定の存在やその金額について,仲介業者から説明を受けた上で,本件居室を選定したと考えられ,原告は,その後再び仲介業者から重要事項説明の中で更新料について説明を受けている。
このように,原告と被告会社に情報力,交渉力の格差はほとんどないし,本件更新料条項は,原告に不測の損害あるいは不利益をもたらすものではない。
(エ) 被告会社の不利益
賃貸人は,更新料が社会的に承認されてきたことなどから,更新料を設定して初期の賃料を低くするなどして,更新料を含めた全体の収支を計算し,月額賃料を設定している。
本件更新料条項が無効になれば,他の物件の賃貸借関係にも波及し,被告会社は,消費者契約法施行後に締結された全ての賃貸借契約について,受領した更新料を返還しなければならなくなるという不利益を受けることになる。
また,実際に原告から支払われた更新料は,被告の収入となり,税務申告をして税金を支払い,賃貸経営の諸経費,生活費などにすでに使用している。
本件更新料条項が有効であることに対する被告会社の期待は合理的で,十分法的保護に値するものである。
(オ) 原告の不利益
更新料が設定されている物件は賃料のみの物件よりも月額賃料が低く設定されているのが通例で,原告は,更新時まで低い賃料で借り,仲介手数料や敷金等の初期費用も少なくて済むなどの点で有利であるし,更新料を支払うことで,更新拒絶権の放棄,賃借権強化という利益を得ている。
また,更新料は社会的に承認され,多くの賃借人が更新料を支払っており,この点から,更新料を支払っていることの不利益は小さいといえる。
さらに,原告は,本件賃貸借契約締結に際し,本件更新料条項について仲介業者から説明を受けた上で契約し,現実に約定更新料を支払ってきたのであり,更新料の厳密な法的性質は認識していなかったとしても,更新料が賃料の補充,更新できることの対価であることを明示的,黙示的に認識して,主体的に,本件更新料条項を含む本件賃貸借契約を締結したということができ,原告は,更新料及び月額賃料といった経済的負担に合理性があると判断していたはずであり,本件更新料条項が原告に不測の損害あるいは不利益を及ぼすことはないし,むしろ,原告は,目的物件の使用収益,契約期間の保護という利益を既に享受している。
原告の主張する不利益は,いったん納得して支払った更新料が返還されないというに過ぎない。
(カ) 原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,更新料には何らの合理性,対価性がないから重大な不利益を受けており,本件更新料条項は無効であるという旨の主張をするが,上記(ア)の後段要件該当性の判断基準に照らせば,客観的な対価性を欠けば直ちに無効となるとの解釈には無理がある。
また,複合的性質を有する更新料につき,各個別の性質からすべてを合理的に説明できないことをもって,更新料に合理性がないと批判するのも失当である。
(キ) 以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえないから,後段要件を満たさない。
(2) 本件定額補修分担金条項の有効性
(原告の主張)
本件定額補修分担金条項は消費者契約法10条により無効である。
ア前段要件該当性
本件定額補修分担金条項は,賃借人の通常の使用によって生じる損耗・経年変化の回復費用を賃借人負担とするものである。
建物賃貸借契約においては,賃料と通常使用に伴う損耗等とが対価関係に立ち,通常損耗等の発生が当然に予定されているところ,本件定額補修分担金条項は通常損耗等の回復費用につき,賃借人に二重の負担を課すものであって,民法601条に比して,消費者の義務を加重するものである。
イ後段要件該当性
本件定額補修分担金条項では,賃借人の故意又は重過失による損傷の回復費用は,定額補修分担金とは別賃貸人が賃借人に請求できることになっている一方で,軽過失による損耗は定額補修分担金の中に含まれるとしている。
しかし,実際の軽過失損耗の有無にかかわらず賃借人に費用を負担させる点で明らかに不当であり,また,実際に軽過失損耗があったとしても,本来は負担対象範囲の限定や経過年数を考慮した上で賃借人の負担割合が決定されるのに,本件の定額補修分担金条項はそのような負担割合を一切無視するものであり,不当である。結局のところ,本件定額補修分担金条項は,賃借人の過失損耗を超えて通常損耗等の回復費用を賃借人に負わせようとするものである。
また,故意又は重過失による損耗の回復費用については,補修費用の二重取りができる状態となっている。このように,本件定額補修分担金条項は,賃借人である原告と賃貸人である被告会
社がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容にはなっていない。
したがって,本件定額補修分担金条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえる。
(被告会社の主張)
本件定額補修分担金条項は有効である。
ア前段要件該当性
本件定額補修分担金条項は,賃借人の軽過失による原状回復費用が定額補修分担金を超える場合には,その原状回復費用を賃貸人の負担とする点において賃借人の義務を軽減するものであるし,また,原状回復費用についてあらかじめ賃借人の負担部分を定めることによって,契約終了時の紛争を回避し,賃借人と賃貸人がリスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものである。
そうすると,本件定額補修分担金条項は,民法等の規定に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項とはいえない。
イ後段要件該当性
本件定額補修分担金条項により,賃借人である原告は,軽過失は免責されるので,通常の生活を営む限り,原状回復費用のことを気にかけることなく安心して物件に居住することができる。また,損害額をあらかじめ定額化することにより,退去時における紛争のリスクも格段に減少する。
これらのメリットによれば,本件定額補修分担金条項が一方的に消費者に不利益であるとはいえない。

第3 争点に対する判断

1 争点(1)について
(1) 本件更新料条項の法的性質の検討
ア検討の前提
本件更新料条項は,法律上の根拠に基づくものではなく,本件賃貸借契約の一内容として,原告と被告会社との間で定められたものである。
したがって,本件更新料条項の法的性質の内容は,当事者である原告と被告会社の契約時における合理的意思の解釈によって判断することとなる。
そして,この合理的意思解釈に際しては,本件賃貸借契約条項の文言,契約締結経緯等の客観的事情や,当事者の当時の認識等の主観的事情等がその判断資料となる。
以上を前提に,以下,本件更新料条項の法的性質につき検討する。
イ賃料の補充としての性質
(ア) 賃料の意義
賃貸借契約は,賃借人による目的物の使用とその対価としての賃料の支払を内容とする契約であるから(民法601条),賃料とは,目的物の使用収益の対価たる金銭である。
そして,賃料以外の金銭,すなわち,目的物の使用収益と対価関係に立たない金銭の支払を負担することは,賃貸借契約の基本的内容には含まれない。
(イ) 本件賃貸借契約条項の定め
a 本件の更新料は,本件賃貸借契約条項上,名目は「賃料」ではないし,「賃料」とは別個に定められている。
したがって,この点からは,本件の更新料は,賃料以外の,賃貸借契約の基本的内容に含まれない金銭と考えるのが自然である。
b しかし,名目は「更新料」であっても,当事者が,目的物の使用収益の対価の一部として定めたのであれば,名目はともかく,法的には賃料の一部であると評価しうる余地はある。
c そこで,更に本件賃貸借契約条項をみると,更新料が賃料の補充又は一部であると定めた規定はないほか,一度支払った更新料は返還されない旨の規定があり,たとえ中途解約がされても,それまでの使用収益期間に応じて返還されることはない(別紙2条3項)。
(ウ) 被告会社の主張の検討
a 被告会社は,@本件の更新料が1年の更新期間ごとに支払われ,更新しない場合には授受が予定されていないこと(別紙2条4項),A原告が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は賃貸期間に比例しており,当事者もこれを納得していることなどから,本件の更新料は使用収益の対価たる賃料の補充・前払いとして定められていたと解するのが当事者の合理的意思に合致する旨主張している。
b まず,この主張を,賃貸人たる被告会社の意思に関して検討すると,弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件賃貸借契約締結当時,「目的物の使用収益の対価」,すなわち賃料として更新料を設定する意思であった可能性が高いと認められる。
ただし,被告会社は,「権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定する」旨の主張もしているほか,「本来受けるべき経済賃料額」として考える額を定めて,そこから一定額を更新料という名目に移し替えるという作業をしたようにも窺われないから,本件賃貸借契約締結当時,法的意味での賃料すなわち「目的物の使用収益の対価」という観点を十分に認識していなかった可能性がある。
そして,これらの事情によると,被告会社は,更新料を,賃料すなわち「目的物の使用収益の対価」の一部という狭い意味ではなく,「本件賃貸借契約に係る全体の収益の一部」という広い意味において考慮し設定した可能性もあるといえる。
c 次に,上記a@,Aの主張を賃借人たる原告の意思に関して検討すると,被告会社の主張するとおり,原告が,更新料を含めた賃貸借契約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決め,更新料についても,更新の際に負担する金銭で,自己の支出となり,賃貸人たる被告会社の収入となり,返還されない金銭であることを理解していたことは十分に窺われるし,原告が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計が,ほぼ賃貸期間に比例していることも理解し得たことが窺われる。
被告会社は,このことから,原告が,更新料を,本件居室を「使用収益」するのに必要な対価として把握していると意思解釈できる旨主張しているものである。
しかし,例えば敷金や共益費・RCV料など,本件賃貸借契約の「目的物」である本件居室の「使用収益の対価」ではないが,賃貸借契約に付随して授受される金銭というものもあるから,賃借人の側としては,賃貸借契約に伴う費用であるからといって,それはすべからく「使用収益の対価」であると考えるとは必ずしもいえない。
更新料についても,例えば,更新に対する謝礼であるとか,合意更新をしてもらうことの対価であるなどと賃借人が考えることは,十分にあり得ることである。
現に,被告会社も,「賃借人は更新拒絶権放棄(紛争回避)の性質があると思えばこそ更新時に更新料を支払う」旨の主張をしており(前記第2の2(1)(被告会社の主張)ア(イ)),実際のところ,賃借人がそのように考えて更新料を支払う可能性も十分に認められるものである。
そうすると,原告に上記のような認識,理解があったからといって,直ちに,原告が更新料を「目的物の使用収益の対価」と認識していたということにはならない。
(エ) その他の事情
本件賃貸借契約締結時,原告と被告会社が,更新料が「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部である旨合意していたとか,原告が更新料につき賃料の補充又は一部である旨の説明を受けたとか,原告が更新料を賃料の補充又は一部として支払ったと認めるに足りる証拠はない。
(オ) 当事者の合理的意思解釈のまとめ
以上のような,賃料の意義((ア)),本件賃貸借契約条項の定め((イ)),被告会社の主張の検討結果((ウ)),その他の事情((エ))を総合すれば,本件において,当事者である原告及び被告会社の合理的意思を検討しても,両者が,本件更新料条項を「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部として定めていたと解することはできない。
そして,以上の検討結果によれば,明確に認定することはできないものの,実際のところは,被告会社としては,本件の更新料を「使用収益の対価」たる賃料の一部であると考えていたが,原告は,そうは考えず,更新料を,「更新に対する謝礼」であるとか,「更新拒絶権放棄の対価」等として考えるなどしていたため,更新料についての当事者の意思が,「賃貸借契約に関する全体の収支」というレベルでは合致していたものの,「使用収益の対価」というレベルでは一致していなかったという可能性が高いものと考えられる。
(カ) 以上のとおりであるから,本件更新料条項に,賃料の補充又は一部という性質があるとは認められない。
ウ更新拒絶権放棄の対価としての性質
(ア) 賃貸人である被告会社が,更新拒絶の正当事由が存在するか,あるいは存在するか否かが判然としないにもかかわらず,更新時に本件更新料条項に基づく更新料の支払が受けられることを期待し,これと引換えに更新拒絶権をあらかじめ放棄することにより,賃貸人と賃借人との間の紛争が避けられることもあり得るから,この意味で,更新料が更新拒絶権放棄と一定の対応関係を有し,賃借人である原告に利益をもたらす面があることは否定できない。
なお,原告及び被告Aは,更新料の支払われるころには,既に賃貸人による更新拒絶権行使の期間(期間満了の6か月前まで)が徒過していて更新拒絶権が発生しないことが確定しているのが通常であり,更新料の支払によって更新拒絶権が放棄され紛争が回避されるとはいえない旨主張しているが,上記のように,賃貸人は,更新時に更新料の支払が受けられることを「期待して」あらかじめ更新拒絶権を行使しないことも考えられるから,この主張は失当である。
(イ) しかし,借地借家法28条の規定等によれば,更新拒絶の正当事由の判断に際しては,当事者双方の建物使用の必要性が基本的な判断要素となり,建物の賃貸借に関する従前の経過及び建物の利用状況,立退料その他の財産上の給付の提供・支払は,補完的要素であって,建物使用の必要性の有無のみでは判断し難い場合に,初めてこれが考慮されるものと解される。
このような正当事由の判断方法に照らすと,収益目的の居住用賃貸物件の建物賃貸借契約においては,当初から他人に賃貸する目的であるから,正当事由が認められる場合は少ないと考えられる。
そして,本件においても,本件建物は被告会社がその事業のために賃貸用に改装して賃貸している物件であり,本件居室はその一室である以上,正当事由が認められる場合は少ないということができる。
(ウ) また,本件においては,更新時に更新料の支払が受けられることを期待して被告会社が更新拒絶権をあらかじめ放棄するといっても,それまでに原告から更新の申出(別紙2条2項。申出の期限は期間満了の60日前である。)がされていない限り,期間満了の6か月前までは,被告会社が更新拒絶権を放棄するかしないかを自由に選択できる。
したがって,本件更新料条項の存在により,必ず賃貸人である被告会社の更新拒絶権放棄がもたらされるわけではない。
(エ) このように,本件において,更新料が更新拒絶権放棄と一定の対応関係を有するとしても,そのような関係は,解約申入れに正当事由があるか,又はあるか否か判然としない場合であり,かつ,賃貸人である被告会社が,その自由な選択の下,解約よりも更新料の支払を受ける方を選択したという限られた場合に認められるもので,これにより賃借人が受ける紛争回避の利益は,それほど大きく評価すべきものではない。
加えて,本件における更新料額は,1年ごとに月額賃料の2か月分,すなわち7万6000円と,かなり高額である。
その他,本件において,原告と被告会社が,特に更新料を更新拒絶権放棄の対価としての性質があるものと合意したとの事情を認めるに足りる証拠はない。
(オ) 以上を総合すると,本件において,更新拒絶権放棄は,そもそも本件の更新料の対価となっているとまではいえないか,あるいは,対価としての性質は認められるとしてもその意義は希薄で,更新料の金額とは均衡していないというべきである。
エ賃借権強化の対価としての性質
(ア) 被告会社は,賃貸借契約が合意更新された場合,更新後も期間の定めのある賃貸借となるので,賃借人は,契約期間の満了までは明渡しを求められることはないが,法定更新の場合には,更新後の賃貸借契約は期間の定めのないものとなるので(借地借家法26条1項ただし書),賃貸人は,いつでも解約を申し入れることができるから,賃借人の立場は不安定なものとなるので,更新料は,合意更新をする対価であると主張する。
(イ) しかし,そもそも本件更新料条項においては,法定更新の場合にも更新料を支払う旨定められているから(別紙2条3項,4項),更新料を支払ったことによって賃借人の地位の安定すなわち賃借権の強化がもたらされることはない。
つまり,上記のような合意更新と法定更新の違いを前提とする説明は,このどちらの場合にも支払うこととしている本件更新料条項の性質の説明としては,およそ成り立ち得ない。
なお,仮に本件で法定更新の場合に更新料を支払う旨の定めがなかったとしても,法定更新の場合の解約申入れにも正当事由の存在が要件とされており(借地借家法28条),前記ウ(イ)で検討したように,本件では正当事由が認められる場合が少ないと考えられることからすると,法定更新後の賃借人の立場と合意更新後の賃借人の立場の安定性の差異はわずかにすぎず,賃借権がそれによって強化されたと評価するのも困難である。
(ウ) その他,原告と被告会社が,本件更新料条項に賃借権強化の対価の性質があると特に合意したとの事情を認めるに足りる証拠はない。
(エ) 以上によれば,本件更新料条項には,賃借権強化の対価としての性質はない。
オ以上検討したとおり,本件更新料条項には,賃料の補充又は一部としての性質,賃借権強化の対価の性質はいずれも認められない。
また,更新拒絶権放棄の対価の性質も,そのようにはいえないか,あるいは,かなり希薄なものとしてしか認められず,本件における更新料の金額とは均衡していない。
そうすると,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有すると評価することもできる。
(2) 消費者契約法10条該当性の検討
ア消費者契約法の適用
原告は,事業として又は事業のために本件賃貸借契約の当事者となったものではない個人であるから,消費者契約法2条1項の「消費者」に該当する。
また,被告は,不動産賃貸業等を事業とする株式会社であるから,同条2項の「事業者」に該当する。
したがって,本件賃貸借契約は同条3項の「消費者契約」に該当し,同法10条の規制対象たりうる。
イ前段要件該当性
(ア) 消費者契約法10条は,その前段において,適用の対象となる条項を「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」と規定している。
そして,前記(1)オのように,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有するとも評価できるものであり,賃料の補充又は一部という性質は有していない。
したがって,本件更新料条項は,賃借人に対し,民法601条に定められた賃貸借契約における基本的債務たる賃料以外に,金銭の支払義務を課すものであり,民法の規定に比して賃借人の義務を加重しているから,前段要件を充足する。
(イ) なお,被告会社の主張にかんがみ検討すると,賃借人である原告が,本件更新料条項を,本件賃貸借契約を締結する際の意思決定の考慮要素としていることは認められるから,この点において,本件更新料条項が,被告会社のいうところの中心条項の要件である,市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与しているものということは不可能ではない。
そうすると,被告会社の主張に従えば,本件更新料条項が中心条項に当たることになって,消費者契約法10条が適用されないということになってしまう。
しかし,そもそも被告会社のいう中心条項が消費者契約法10条前段要件を満たさないのは,中心条項といわれる契約の要素や価格についての定めは,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による」とそもそも当事者の自由に委ねられ,依るべき法的基準が与えられていないので,これに「比し」て「消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重」している場合が考えられないからであると解される。
このように,同条は,依るべき法的基準がない,すなわち私的自治が強く尊重されている事項については,その司法的内容審査に服させないこととしているものと解されるのである。
本件更新料条項は,必ず賃貸借契約に付随して定められるものであり,しかも,それ自身の対価がほとんど想定できないことからすれば,上記(ア)のように,賃貸借契約における賃借人の債務に関する民法601条の規定を,消費者契約法10条の「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」,すなわち,与えられた法的基準として考えることができるのであり,つまり,本件更新料条項は,当事者の全くの自由には委ねられていないと考えられるものである。
したがって,本件更新料条項が,仮に市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与している条項であるといえたとしても,この点は同条前段の適用に関し障害とならないといえる。
ウ後段要件該当性
(ア) 検討の前提
消費者契約法10条は,その後段において,同条により無効となる条項を,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と規定している。
この「消費者の利益を一方的に害する」とは,消費者契約法の目的(同法1条)等に照らせば,消費者と事業者との間の情報の質及び量,交渉力の格差を背景として,消費者が誤認又は困惑するような状況に置かれるなどして,消費者の法的に保護されている利益を,信義則に反する程度に,両当事者の衡平を損なう形で侵害することをいうものと解される。
(イ) 次に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 国土交通省が,平成19年3月,財団法人日本賃貸住宅管理協会の会員である賃貸住宅管理会社を対象に行った民間賃貸住宅に係る実態調査の結果(乙19)によると,更新料の徴収は全国的に行われているが,大阪府,兵庫県のように,全く更新料の支払がされていない地域もあり,京都府においては,平成17年4月から平成18年3月の間にされた居住用住宅の賃貸借契約のうち更新料が徴収されている物件は,55.1パーセントである。
b 更新料に関する情報
インターネットや情報誌等の賃貸情報では,更新料が記載されているものも,記載されていないものも見受けられる上,同じ物件であっても,インターネットのサイトによって,更新料が記載されたりされなかったりしている場合もあるほか,被告会社自身のホームページ上でも,更新料についての記載がない場合がある(甲14〜24,28,乙20,29〜50)。
このように,更新料の情報についての状況は一様ではない。
(ウ) 検討
a 情報及び交渉力の格差
被告会社の主張するとおり,賃借人は,賃貸物件の情報を,インターネットや情報誌等の賃貸物件情報により,容易に大量に入手できることは明らかである。
そして,上記(イ)bによれば,更新料の有無や金額につき,選択した物件について必ず情報があるとは限らないものの,一定程度は,インターネットや情報誌等で情報を得ることができる状況にある。
そうすると,少なくとも更新料に関する情報の量の点では,原告と被告会社には大きな格差は存在しないということができる。
しかしながら,通常,一般の賃借人は,賃貸借契約上の個々の条項について,なぜそのような条項が定められているのか,なぜそのような金額になっているのかの理由については知らないことも多く,このような情報の質の観点からは,賃貸人との間に格差が存在することもあり得る。
そして,通常,一般の賃借人が,前記(1)で検討したような更新料の法的性質というものについて認識しているとは考えられないし,現に,本件更新料条項の性質については,原告と被告会社の間で認識が一致していたとは認められず,一致していなかった可能性も高いことは,既に前記(1)イ,ウ,エで検討したとおりである。
そうすると,本件更新料条項に関する情報の質の点では,原告と被告会社との間に格差があったと認められる。
また,証拠(乙1,9,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,更新料を徴収すること及びその額については,賃貸人である被告会社の方であらかじめ決定しており,原告には交渉の余地はなく,仮にこれが不満であれば本件居室を賃借することを断念せざるを得なかったものと認められ,この意味において,本件更新料条項に関し,原告と被告会社との間には,交渉力の格差があったと認められる。
被告会社は,情報力と交渉力に格差がない旨主張しているが,以上の検討結果に照らし,採用できない。
b 原告の受けた不利益等
前記(1)で検討したとおり,本件更新料条項は,極めて乏しい対価しかなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与的な性格を有するとも評価できるものである。
そうすると,通常,賃借人たる原告は,このような性質を知っていれば,更新料は支払いたくないと考えるはずである。
そして,原告がこのような本件更新料条項の性質について認識していたと認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,更新料を含め,本件賃貸借契約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決めたものと窺われるが,仮に,本件更新料条項の上記のような性質を認識していれば,本件居室を賃借しようと判断しなかった可能性もあり,その意味で,原告は,一種の誤認状態に置かれていたものと評価することができる。
以上によると,原告は,本件更新料条項の性質について一種の誤認状態に置かれた上で,本件更新料条項について合意し,対価性の乏しい贈与的金銭(金額は更新1回当たり月額賃料の2か月分である7万6000円)の支払を約束し,実際に支払を行うことになり,法的に保護された利益を害されたということができる。
c 被告会社の受ける不利益等
本件更新料条項が無効となると,被告会社は既に受領している更新料を原告に返還することになる。
しかし,これは,上記bの原告の受けた不利益に対応する利益がなくなるというだけのことであるから,この点は,ここでの検討において考慮すべき被告会社の不利益には当たらない。
また,被告会社は,本件更新料条項が無効になれば,他の賃貸借関係にも波及し,既に受領した更新料を返還すべきこととなって,多大な不利益を受けるなどと主張しているが,これはそもそも本件更新料条項の効力の有無そのものによって受ける本件賃貸借契約に関する不利益ではない。
更新料条項それぞれの規定内容,それぞれの契約締結前後の事情等によって,更新料条項の有効性の判断が事例ごとに異なることは当然にあり得るのであって,他の賃貸借契約への影響は,単
なる事実上の問題にすぎない。
したがって,被告会社の主張する被告会社の不利益は,ここでの検討に際し,考慮の対象とはならない。
d 被告会社の主張の検討等
被告会社は,その主張の中で,更新料が社会的に承認されていることを強調している。
しかし,仮に更新料一般が社会的に承認されているからといって,本件更新料条項の対価性が乏しいことが克服されるわけではないし,これが原告の受ける不利益の大小に関係することもない。また,被告会社が主張する社会的承認の内容に関して検討しても,上記(イ)aのように,全国一律に更新料の慣習があるというわけでもないから,本件更新料条項の有効無効の判断に関係する事情とはいえない。
e まとめ
以上によると,本件更新料条項は,原告と被告会社との間の本件更新料条項に関する情報の質及び交渉力の格差を背景に,その性質について原告が一種の誤認状態に置かれた状況で,原告に,対価性の乏しい相当額の金銭の支払の約束と実際の支払をさせるという重大な不利益を与え,一方で,賃貸人たる被告会社には何らの不利益も与えていないものであるということができ,信義則に反する程度に,衡平を損なう形で一方的に原告の利益を損なったものということができるから,後段要件を充足する。
(3) まとめ
以上の検討によれば,本件更新料条項は,消費者契約法10条に該当することが明らかであり,同条により無効である。
2 争点(2)について
(1) 前段要件該当性
ア民法の規定(601条,616条,598条等)によれば,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務を負うが,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借契約の本質上当然に予定されている。
したがって,建物の賃貸借契約において,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少である通常損耗の補修に関する費用は,使用収益の対価たる賃料の中に含まれているものと解される。
よって,民法の規定によれば,賃借人には,通常損耗についての原状回復費用を負担すべき義務はない。
イ本件では,賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として定額補修分担金を支払うものとされており(別紙5条1項),ほかに通常損耗の原状回復費用が定額補修分担金に含まれないとの条項もないから,本件定額補修分担金条項は,通常損耗分の原状回復費用も含んでいるものと解される。
また,故意又は重過失による損傷,改造の回復費用については,被告会社は別途原告に請求できる旨が定められている(別紙5条柱書,4項ただし書)。したがって,本件定額補修分担金条項による補填の対象となっているのは,前記アの通常損耗に関する原状回復費用と,原告の軽過失による損耗部分の原状回復費用ということになる。
以上に加え,原告はいったん支払った定額補修分担金の返還を請求できないとされていること(別紙5条2項,3項)からすると,原告の軽過失による損耗部分の原状回復費用が,支払った定額補修分担金の額(12万円)に満たない場合には,原告は,本来賃料に含まれているはずの通常損耗分の原状回復費用についてまで負担させられることになる。
そうすると,この点において,本件定額補修分担金条項は,前記アの民法の規定に比して,消費者たる原告の義務を加重する条項であるということができる。
したがって,本件定額補修分担金条項は,前段要件を充足する。
(2) 後段要件該当性
ア原告の受けた不利益
まず,本件定額補修分担金条項が原告の義務を加重している程度について検討すると,支払済みの定額補修分担金は一切返還されず(別紙5条2項,3項),故意又は重過失による損耗の原状回復費用は別途請求できるものとされている(別紙5条柱書,4項ただし書)から,民法の規定と比べると,@軽過失による損耗についての原状回復費用が12万円以上であれば,原告は通常損耗分の原状回復費用を負担しないことになり,原告に不利益はないが,A軽過失による損耗分の費用が12万円に満たない場合には,原告の義務は加重されていることになる。
本件の場合,月額賃料は3万8000円であるのに対し,定額補修分担金はその3倍以上である12万円であるところ,軽過失による損耗の原状回復費用がこのような額になることは考えにくく,賃借人が民法の規定よりも加重された義務を負う場合が多くなるから,本件定額補修分担金条項は,賃借人たる原告にのみ大きい不利益を与えるものであるということができる。
イ情報及び交渉力の格差
証拠(乙1,9,10,55)及び弁論の全趣旨からは,本件定額補修分担金条項自体及びその額は,被告会社が一方的に定めたものであり,原告には,同条項を定めるか否かや,その額について交渉する可能性はなかったものと認められるほか,原告に対し,定額補修分担金の有利不利を判断するために必要な情報(前記ア@,Aの説明)が与えられたことはなく,原告がこのような情報を認識していなかったことが窺われる。
このように,原告と被告会社には,本件定額補修分担金条項に関し,情報及び交渉力の格差があったものということができる。
ウ被告会社の主張の検討
被告会社は,本件定額補修分担金条項は,軽過失による損耗の原状回復費用が定額補修分担金の額を超える場合には賃貸人の負担とする点において賃借人の義務を軽減しているとか,原状回復費用についてあらかじめ賃借人の負担を定めることによって紛争を回避し,リスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものであるなどと主張しているが,前記アのように,軽過失による損耗による原状回復費用が本件の定額補修分担金の額である12万円(月額賃料の3倍以上)を超えることは通常ほとんど考え難いことからすると,賃借人たる原告に,被告会社の主張するような利益があるとはいえず,本件定額補修分担金条項が交換条件的な内容であるということはできないから,被告会社の主張は失当である。
エまとめ
以上によれば,原告は,本件定額補修分担金条項についての情報及び交渉力について被告会社と格差のある状況の下,自分にとって不利益であることを認識しないまま,本件定額補修分担金条項によって,信義則に反し,一方的に不利益を受けたものということができる。
したがって,本件定額補修分担金条項は,後段要件を充足する。
(3) まとめ
以上によれば,本件定額補修分担金条項は,消費者契約法10条に該当し,無効である。
3 不当利得
本件更新料条項及び本件定額補修分担金条項はいずれも無効であるから,これら条項に基づき原告が被告会社に支払った22万8000円及び12万円の合計34万8000円は,いずれも法律上の原因がない利益に当たるということができる。
4 結論
以上のとおりであるから,原告の第1事件に係る金銭請求はいずれも理由があるから認容し,被告会社の第2事件及び第3事件に係る請求はいずれも理由がないから棄却する。
なお,原告の第1事件に係る確認の訴えは,第2事件に係る金銭請求と訴訟物が同一であり,確認の利益がないから却下する。

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本人訴訟の場合、貸金業者側の反撃に遭い、後記の民法704条に基づく利息を付さない和解に追い込まれるケースが多いといわれ、また、後掲のように、取引履歴の不開示があったり、充当関係で複雑な事案であったりすると、本人訴訟で法律上正しい金額の返還を受けることは極めて困難なのが現実。

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事業の失敗など、借金を全額返済出来ない状況になったら債務整理をするしかありません。
債務整理とは多額の借金を負ったとき、多重債務に陥ったときに、債務者の再生させるいくつかの方法のことを言います。
最も有名なやり方は自己破産です。
一般の方は自己破産のイメージのみあるため、債務整理に二の足を踏みがちです。
住宅ローン特則(「住宅資金貸付債権に関する特則」)という手続きを利用して個人再生をすればマイホームを失わずに借金を整理出来る場合があります。
自分が債務整理をする場合、実績が多数ある弁護士・司法書士を探しましょう。
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自己破産・個人再生以外にも任意整理・特定調停といった方法がありますので、個別に弁護士や司法書士に相談してみて下さい。

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